私は車を所有していない。旅の長距離移動は、もっぱら電車かバスだ。現地では徒歩、シェアサイクル、あるいは折りたたみ自転車を使う。
公共交通機関の利点は、手がふさがらないことにある。田舎に住んでいるため、都市部へ出るには、特急列車で三時間ほどかかる。
その間、ノートパソコンで仕事をしたり、Kindleで読書をして過ごす。自宅と違って誘惑が少ないぶん、集中できる。動くワークスペースのようなものだ。
集中していれば、三時間はあっという間に過ぎる。家で座って仕事をするか、電車で座って仕事をするか。その違いにすぎない。むしろ、電車の方が捗ることさえある。眠ければ、寝ても構わない。



自分でハンドルを握っていては、そうはいかない。旅先で酒を楽しむ身としては、運転の制約も大きな負担になる。これでは旅の楽しみが半減する。
もちろん、車には利点もある。公共交通の通っていない土地や、徒歩や自転車では行きにくい場所にも足を伸ばせる。私の場合、そうした場所は、旅の候補から外さざるを得ないことがある。
だが、公共交通で行ける場所だけでも、十分すぎるほどの数がある。私の旅に車は必要ない。
折りたたみ自転車も便利だ。私が使っているDAHON Dove Plusは約7kgと軽量で、輪行袋に入れれば電車にも飛行機にも持ち込める。
自転車なら、車と違って好きなときに停まれる。写真や動画を撮ることも旅の楽しみのひとつだ。この機動性は手放せない。
汗をかいて目的地にたどり着くと、その道中も自然と記憶に残る。車とは違い、屋外の空気を全身で受け取ることができる。体で旅をしているという実感がある。


駐輪の手軽さも、自転車の利点だ。都心での店巡りにも使いやすい。
最近は、都市部のあちこちにシェアサイクルのステーションが整備されている。かつては、どこへ行くにも折りたたみ自転車を持参していた。軽量とはいえ、7kgの荷物は小さくない。
今は、都市部に宿泊する際は、自転車を持参しない。現地でシェアサイクルを利用している。ステーションが多いため、不便を感じることはない。
以前の京都はステーションの数が少なく、辺鄙な場所で降りてから、目的地まで長く歩かされた。だから折りたたみ自転車を持参していた。だが今では、京都市内もステーションが充実し、市街地の店巡りには欠かせない。
車がなくても、旅はできる。むしろ、車がないからこそ見える景色もある。これからも電車と自転車で旅を続けていくつもりだ。
道中をおっくうに感じて旅に出ない人もいれば、観光旅行は写真で見た風景の確認作業に過ぎない――そんなふうに言う人もいる。
だが、そう言うのは、車で移動するからではないか。道中にある小さな出来事が、旅の記憶を豊かにしてくれることもある。