名古屋は、旅の中継地点としてよく立ち寄る街だ。駅近くに気に入っているコーヒー専門店があり、乗り継ぎの合間に極上の一杯を飲むのを楽しみにしている。

学生の頃、名古屋に良い印象はなかった。東京に出たくて仕方がなく、やりたくもない仕事で上京資金を稼ぎ、脱出するように名古屋を後にした。

おもてなしのある個人店に入ることもなければ、バーに通う余裕もなかった。今にして思えば、街の印象を悪くしていたのは、自分の境遇に過ぎなかった。

十五年ほど前、東京から再び名古屋の近くに住むことになった。その頃は栄・錦でよく飲み歩いた。飲食店の看板が立ち並び、選択肢が多いエリアだ。名古屋人は冷たいとも言われるが、実際に店を回ってみると、人は気さくで、店を紹介してくれることも多かった。

中心街ですら「客を取り合うのではなく回していくほうが街のためになる」と語る店主がいて、意外に思ったのを覚えている。そうして、名古屋の印象は良い方へ変わっていった。

東京と比べ、漫画喫茶の個室の広さには驚いた。終電間近になっても飲み足りないと思えば、漫画喫茶に泊まる。そんな夜もたびたびあった。そうした日常は数年続いたが、やがて再び名古屋と疎遠になった。

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そして、定期的に旅に出るようになった今、再び名古屋に立ち寄る機会が増えた。

先日、十年ぶりに週末夜の栄・錦を訪れたが、人の熱気に圧倒された。すっかり田舎暮らしに慣れ、歳も重ねたせいか、今の私には伏見・丸の内の落ち着きが合っている。

この辺りはオフィス街で、高層ビルが立ち並びながらも静かな雰囲気がある。飲食店の客層も落ち着いており、騒々しい団体客に出くわすことはめったにない。

ビジネスホテルが豊富で、宿泊にも困らない。名古屋駅から徒歩二十分ほどで、いつものホテルに着く。この界隈に入ると、ほっとする。帰ってきたような感覚すらある。

ホテルでシャワーを浴び、夕食前に仕事を片付ける。それからジャケットを羽織り、近隣の店で食事し、二軒目はバーで酒を嗜む。朝は馴染みのカフェでトーストとコーヒーを。そんな過ごし方が定番になった。

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名古屋人はプライドが高いと言われることもあるが、実際には自分の街を誇らしげに語る人は少ない。「観光するところはない」「都会ではなく大いなる田舎」と自虐的に語る姿の方が印象に残っている。

名古屋城や熱田神宮を除けば、誰もが思い浮かべるような観光地は、確かに少ない。だが、それゆえに自分なりの過ごし方ができる余地がある。観光客の混雑に巻き込まれることなく、その街で暮らしているかのように過ごせる。ホテル代は、インバウンドが増えた今も手頃なところが多い。

都会である以上、田舎にはない店が揃っている。今はオンラインで何でも買えるが、実物を確かめたい商品もある。店を見て回るだけでも、田舎の日常では得られない刺激がある。たまには、こうした刺激が必要だ。

つい居心地の良い伏見・丸の内で完結しがちだが、今はシェアサイクルもあり、気軽に足を伸ばせる。エリアごとに特色があり、歴史ある神社仏閣も点在する。まだ名古屋での楽しみは拡張できる余地がある。

そんなふうに腰を落ち着けても過ごせる街だが、私にとってはやはり旅の中継地点でもある。駅近くのコーヒー専門店で一杯を口にすると、旅の始まりを実感する。私にとって名古屋は、これからもそんな街であり続けるだろう。

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