福井県鯖江市は、「メガネの街」と呼ばれている。国産のメガネフレームの大半が、この街で生産されているからだ。
始まりは明治時代。農家の副業としてメガネ作りが導入された。当時の人々は、和紙や漆器などの手工芸に親しみ、手作業への適性を備えていた。そうした素地と職人気質が、この地にメガネ産業の基盤を築いた。
戦時中も、軍用にメガネが必要とされたため、技術の継承が途絶えなかった。戦後は、旧軍施設の跡地に工場が集まり、産地として本格的に発展していくことになる。
その鯖江に本社を構え、全国に店舗を展開しているのが金子眼鏡である。鯖江を代表するメガネブランドのひとつと言っていい。
ちなみに読み方は「カネコガンキョウ」。ガンキョウという古風な響きが、老舗らしさを感じさせる。公式サイトによれば、創業は1958年(昭和33年)とのこと。
現在、私は金子眼鏡のメガネを愛用している。購入に至った経緯を記しておきたい。

私の視力は1.5あるが、40代になって老眼が進んだ。以来、老眼鏡を使っている。
最初は量販店で購入した。遠近両用レンズ入りで、価格は一万数千円。いま思えば、代金の大半はレンズ代だったのかもしれない。
一年ほど使うと、フレームが緩み、下を向くだけでメガネが落ちそうになる。店に持っていくと、リムとテンプル(つる)の間に透明のプラスチックを接着し、調整してくれた。
最初はきつく、しばらくして馴染んだかと思えば、また緩んでくる。プラスチックを接着しているだけなのだから当然だ。そしてまた、同じ処置が繰り返される。
フレームの品質に疑問を感じた。メガネは一万数千円も出せば十分と思っていたが、そうではなかった。
寝る時以外は、ずっとメガネを掛けている。ならば、もっと掛け心地が良く、緩んでもネジを締め直すなどして、長く使えるものを選ぶべきではないか――そう考えるようになった。
調べていく中で、鯖江のメガネ、そして金子眼鏡の存在を知った。
公式サイトには、自社工場による一貫生産であること、職人の名を冠したモデルがあることなどが紹介されていた。作り手の姿が見える点に、確かなクラフトマンシップを感じた。
都心にも店舗があり、現物を手に取るのも難しくない。また、購入後のメンテナンスにも持ち込みやすい。
京都を訪れた際、店舗に立ち寄ってみた。おしゃれな外観に惹かれ、そのまま中へ。陳列された豊富なフレームを眺めながら、気づけば購入を前提に選んでいた。
私は、メガネに主張を求めない。好むのは、シンプルな黒のフレームだ。スタッフも言っていたが、色や形が強くなるほど、メガネの存在感も際立つ。私が望む方向とは違う。
その条件で探していると、ちょうどよい一本が見つかった。特に気に入ったのは、フレームの細さだ。量販店では、金属製を除き、テンプルまでこの細さのフレームはあまり見かけない。

価格は九万円近く。以前のメガネなら六本は買える。一瞬ためらったが、この価格帯のメガネがどれほどのものか、身をもって確かめてみよう――そう思い、購入を決めた。
価格の内訳は、フレームと遠近両用レンズが半々ほど。レンズはカール・ツァイス製。カメラレンズや医療用光学機器の分野でも定評のあるメーカーだ。
購入を決めると、店頭のサンプルを掛け、フィット感を確認する。テンプルの先を熱であたため、手作業で角度を調整。そしてまた掛け直す。
そうして最終調整した状態で、工場に発注されるらしい。商品は後日、受け取ることになる。

実際に掛けてみて、まず感じたのは、フィット感のよさだ。頭の形に合わせて微調整されたテンプルの先がしっかり支え、鼻パッドの存在をほとんど感じない。
レンズも非常にクリアで、視界がくっきりしている。以前のものより、傷にも強いようだ。
二年ほど使ううち、やや緩みが出たが、店舗に持ち込むと、その場でネジを締め直してくれた。まさに、求めていたメンテナンス対応だった。
一度、テンプルを少し曲げてしまい、掛けると左右のバランスが崩れていた。だが、その時も店頭で直してくれた。無料だった。

レンズは経年でくすみ、老眼も年々進行する。よって、レンズ交換は避けられない。だが、フレームはまだまだ使えそうだ。十年は保つだろう。
最近、夏用に二本目を購入した。跳ね上げ式のサングラス付きのモデルだ。このタイプは、お洒落メガネのように感じて敬遠していた。しかし、日差しの強いときだけサングラス効果を付与できる、実に合理的な道具だった。
ただし、私が選んだのは脱着式のタイプで、跳ね上げる際の力加減によって外れてしまうことがある。この点は、難点として書き留めておきたい。なお、脱着できない一体型のモデルもあり、そちらであればこの心配はないだろう。
先に書いたように、私はメガネにファッション性は求めない。形違い、色違いで何本も揃えるつもりもない。買っても、あと一本。
私にとって、メガネは実用品だ。だからこそ、品質が高く、長く使えるものであってほしい。金子眼鏡のメガネは、その期待に応えてくれる。
