旅の動画撮影は、スマートフォンで十分だと思っていた。試しに一眼カメラをレンタルしてみたこともあったが、大きさと重さがネックだった。荷物が増えれば旅が億劫になる。そうなるのは避けたかった。
せいぜい持ち歩くとしても、コンパクトデジカメまでだろうと考えた。実際に購入し、スマホとの差別化のつもりで写真を撮っていた。それで満足していた時期もある。
そんなふうに、一度は見送った一眼カメラだったが、今では必ず旅に持っていく。理由は、動画をきちんと撮りたくなったからだ。
滑らかな動画を撮るには、シャッタースピードと露出の制御が欠かせない。NDフィルターも、明るい環境で滑らかな動画を撮るなら、ほぼ必須と言える。となれば、やはり一眼カメラが要る。
設定を詰めて撮影すれば、海の波、風に揺れる木々、飛び立つ鳥の動きに、はっきりと違いが出る。スマホでこれらを撮ると、どこか動きがぎこちなく見えるのは、オート設定による高速シャッターでモーションブラーが失われているからだ。
もちろん、スマホでも手動設定可能なアプリや専用NDフィルターはある。ただ、それらを組み合わせ、タッチ操作で撮るよりは、物理ダイヤルのほうが直感的で、手間も少ない。
撮影以外のときは、NDフィルターがむしろ邪魔になる。撮影のたびに取り付けるのも煩わしい。やはり、撮影のために作られた道具のほうが心地よく、操作していて楽しい。自然と集中できる。
とはいえ、一眼カメラの重量が旅の負担になっては本末転倒だ。フルサイズのカメラも検討したが、最終的にはAPS-Cのコンパクトな機種に落ち着いた。いくつかレンタルして試した結果、APS-Cでも十分に満足のいく動画が撮れると判断し、購入を決めた。
選んだのは、ニコンのZ fc。動画用としてはソニーやキヤノンの人気が高いようだが、ファインダーの有無や重量、価格を総合的に考慮して選んだ。屋外での撮影が多い自分にとっては、ファインダーは必須だった。ニコンの映像には「見たままに近い」という評価があるが、実際に使ってみても、その感覚はたしかにある。

いまでは、スマホでの撮影はすっかりやめてしまった。かつてはスマホのほうが軽快でストレスがないと思っていたが、今はむしろ、タッチ操作のほうが煩わしく感じる。
スマホで撮らなくなれば、旅の最中にスマホを触る時間そのものも減る。一眼カメラで撮ると、自然と集中力が増す。
屋外では液晶が見づらいという機能的な理由でファインダーを求めたが、ファインダー越しに撮影する時は、視界から余計なものが消え、没入感が深まる。
一眼カメラを携えることで、旅の景色とより丁寧に向き合うようになった。そんなふうに思っている。
