名古屋に、気に入っているホテルがある。
一階はブックカフェ、上階が客室になっている。カフェは日中、宿泊客以外も利用できる。宿泊客は、本を自室に持ち込んで読むこともできる。
昼間はカフェが混み合うこともあるので、宿泊時はたいてい部屋に本を持ち帰って読む。落ち着いて読むにはその方がいい。
客室はいくつかのタイプがあるが、私のお気に入りはモデレートシングルだ。窓の外には、公園の緑と高層ビルが見える。その景色を眺めながら読書をする時間は、ささやかながら贅沢だ。
深夜になると、一階のカフェには誰もいないことが多い。近くの行きつけのバーで軽く飲んでから立ち寄り、ほろ酔いでページをめくる。これもまた、旅先ならではの静かな愉しみである。



立地も気に入っている。繁華街から少し離れていて、夜は静かだ。人通りも少なく、騒がしさとは無縁の土地柄である。飲食店の数こそ多くはないが、探せば私好みの店が見つかる。ざわついた雰囲気の客が少ないのも、このあたりの特長だろう。
ホテルの客層も落ち着いているように思う。本が並ぶカフェスペースは、おしゃべりには向かず、自然と静けさを好む人が集まってくる。部屋にいても、廊下がうるさかった記憶はない。夜は、よく寝られる。
私は普段、電子書籍をKindleで読むことが多いが、こうして本棚から選んで読む時間も大切だと感じている。普段の自分なら手に取らないような本と、偶然出会えることがあるからだ。
ここまで読むと、まるで毎回、純粋に読書を目的にこのホテルを訪れているようだが、実際には名古屋に来ると酒を飲みすぎて、読書どころではない夜も少なくない。
先日、近くで健診を受ける予定があった。胃カメラのため前日は酒を控える必要があったので、これを機にこのホテルに泊まり、珍しく真面目に読書だけに集中した。久しぶりに、文字の世界に深く沈み込む夜だった。
もっとも、翌日は、胃カメラを前に、気分が沈む朝だったが。
