酒については、いろいろな説がある。その中で、私が最も信憑性が高いと思っているのは、発がん性というデメリットは、酒のあらゆる効能を上回るという説だ。つまり、アルコールは一切摂取しないことが、健康上もっとも望ましい、ということである。

この説が正しいと信じたうえで、私は酒を飲み続けている。

念のため言っておくと、私はアルコール中毒ではない。単にアルコールを摂取したいのではなく、うまい酒を飲みたいのだ。おいしく酒を飲むためには、休肝日を設けることも大切だと思っている。

だから、たいしておいしくもない酒を飲むくらいなら、休肝日にしたほうがましだと考える。買ってきた酒がまずければ、無理して飲まず、料理酒にすることもある。

酒には、酒にしかない味がある。アルコールが醸し出す、独特の風味がある。これを味わうことを私の人生から取り除いてしまえば、日常の質は大きく損なわれる。

アルコールは、物理的健康という観点からは害しかないのかもしれないが、心理的健康という観点では効能もある。真の酒好きにとって、上質の酒(必ずしも高価な酒を意味しない)を味わうひとときは、ただ一人、自分と向き合う時間でもある。

これは、このような味がする。これは、今までにない味わいだ。そうやって酒を味わう瞬間には、マインドフルネスに通じるものがある。雑念から解放され、ただ味わう自分だけがそこにいる。至高のリラックスタイムだ。

バーで、マスターと酒について語らう時間も、私の人生にとっては貴重な時間だ。

とあるバーのメニューに、こう書かれていた。酒を飲むことは、人間であることの証だ。人間だけが酒を楽しめる、と。猿やチンパンジーも、酒の味を覚え、好みを示すことがあるかもしれない。だが、これだけ多様な酒を造り、それぞれに熱心な愛飲者がいて、あれこれ語り合うのは、この地球上で人類だけだ。

もう若くはないので、健康には気をつけている。食生活にも注意を払い、定期的な運動もしている。健康にとっては害である酒を、末永く楽しむために、健康を維持するという、矛盾に満ちた生活を送っている。

酒を楽しむには、その毒を制する健康が必要だ。毒を承知で楽しみ尽くす――これもまた、「毒を喰らわば皿まで」なのかもしれない。

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